アサガオの歴史
今から1200年ほど前の奈良時代に薬草として日本に渡来したアサガオは江戸時代までは、原種の青花と、色変わりの白花のしかなかったのようです。江戸時代後期(文化文政期;1804~)に、たくさんの変わりもの(突然変異体)があらわれました。
メンデルの法則が再発見された後、主に日本においてアサガオが遺伝学研究の材料としてもちいられました。戦前まで219の遺伝子(対立遺伝子も含む)について調べられ、15群からなる連鎖群のうち、10群についての遺伝子の地図(連鎖地図)も作られました。これは当時ではトウモロコシに次いで詳しく調べられた植物だったのです。その後、花の開花の仕組みなどの生理学的研究以外は研究されていませんでしたが、近年、我々の九州大学と基礎生物学研究所(岡崎)のグループによって分子生物学的な研究が行われています。
これまで用いられていたアサガオの連鎖地図は突然変異体の表現型の組換え価に基づいたもので、精度の非常に低いものでした。
そのため、アサガオとアメリカアサガオのF2集団をもちいて、各種分子マーカー(AFLP, CAPS, SSLP, SSCPマーカー)を使って連鎖地図を作成しました。。古典地図と比較すると、例えば第3染色体後半(South)は実は別の染色体である等さまざまな興味深いことが明らかになりました。また、他の植物遺伝子と相同性のある遺伝子マーカーと表現型マーカーの位置が一致した場合、そのまま遺伝子クローニングにつながることになります。
トランスポゾン(動く遺伝子)の研究(1):Tpn1ファミリー
展示しているアサガオと思えないような突然変異はなぜ起こったのでしょうか? 生物の形や色などは全て遺伝子(DNA)の塩基配列によって決まっています。私たちは、アサガオの色や形を決めている遺伝子を探し出し、その遺伝子がどう変わっているかを調べてみました。その結果、調べたほとんどの遺伝子にトランスポゾン(動く遺伝子)が飛び込んで、正常な遺伝子の働きを壊していることがわかりました。
トランスポゾンとは、それ自身で動くことのできるDNAの断片で、両側に同じ反復した配列を持つなどの構造上の特徴があります。また、アサガオだけでなくほとんどの生物のゲノム中にトランスポゾンは存在していますが、ふだんは全く動いていないか、動いても見えないことが多いのです。
この写真のようにアサガオの突然変異体は不安定な形質を示すものがあり、トランスポゾンの挿入によって誘発されている証拠です。このトランスポゾンは遺伝子をクローニングするときのタグ(指標)にも使えます。
アサガオで盛んに動いて突然変異を起こしているトランスポゾンは両端の塩基配列が同じであるため、これらはTpn1ファミリーと名付けられています。また、内部の配列はトランスポゾンごとに違っており、それらは、アサガオの遺伝子をコピーしたものでした。この意味はまだよくわかっていませんが、他の生物のトランスポゾンには、ほとんど見られないおもしろい特徴です。最近これらを動かしている自律型因子の単離にも成功しました。
以上のことから、江戸時代の後期にアサガオのTpn1ファミリーというトランスポゾンが突然動き出し、色々な遺伝子を壊し突然変異が起こったことと、アサガオの自家受粉する性質や当時の人々の優れた観察眼などの条件が重なって、たくさんの突然変異が見つかったのでしょう。
トランスポゾン(動く遺伝子)の研究(2):ヘリトロン
ノースカロライナの野生集団から見つかったマルバアサガオの八重咲変異体(fp)の原因遺伝子には新規のトランスポゾン、ヘリトロン(Helip1)が挿入していました。このトランスポゾンは最近のゲノムプロジェクトで様々な生物に存在することが分かってきましたが、これまで動くものは知られていません。しかしこのHelip1は動くのです!
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